高松高等裁判所 平成3年(う)221号 判決
論旨は要するに,原判決は,本件についての自白を内容とする被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書(以下「本件各自白調書」という。)を証拠として採用し,これを原判示事実の認定に供しているが,本件各自白調書は,捜査官が,任意捜査の名の下に,当時別件で受刑中であった被告人の身柄拘束状態を利用し,同人を強制的に取り調べた結果得られた違法収集証拠に当たり,(中略),いずれも証拠能力を有しないから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があるというのである。
よって検討するに,原審が本件各自白調書を証拠として採用し,これらがいずれも原判決中に証拠として挙示されていることは,所論指摘のとおりであるが,原審において取り調べた関係証拠を総合すると,前記各供述調書の証拠能力を優に肯認することができ,当審における事実取調べの結果によっても,この判断は動かし得ない。
すなわち,関係証拠によると,被告人は,常習累犯窃盗罪によりF刑務所で受刑中の昭和61年4月11日,その身柄を本件捜査本部のあるT北警察署に移監され,以後,同警察署において取調べを受けたうえ,同月18日,本件を被疑事実として逮捕されたこと,本件発生後,前記移監に至るまでの捜査の経過は,原判決が,「補足説明」の欄において説示するとおり(注・備考2に掲記)であって,前記移監当時,被告人は,本件の有力な容疑者と目されていたことなどが認められ,前記事実に,本件事案の内容等に照らすと,捜査当局には,当時,被告人に出頭を求めて取調べをし,その供述を慎重に吟味する必要性があったものと考えられること,及び,関係証拠によっても,移監後の取調べにつき,被告人において,そのために出頭や取調べ自体を拒み,あるいは取調室からの退去を求めるような態度を示した形跡は窺われないことをも併せ考えると,移監後逮捕に至るまでの間の被告人の取調べは,任意捜査としての性格を有すると考えるのが相当であって,所論のいうように,捜査官において,ことさらに移監手続を経たうえ,これを利用して違法な捜査をしたものとはいえない。
(中略)
以上のとおり,原判決には所論のいうような訴訟手続の法令違反はない。